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2006年3月21日(火曜日) 23:40
楽々編図化計画 その2
カテゴリー: - tata-tatao

私達は、今、文字編図に編図記号フォントと、やたらに編図にこだわっていますが、もしかすると、あまりこれに興味のない方も多いのではないと思います。なぜなら、これまで編物を趣味としている人の多くは編図を読むことはあっても描くことなどなかったと思うからです。

実際、編物をデザインしたりそれを発表したりするのは、プロの仕事で、アマチュアはもっぱら出来ている作品を編むもの、というような区別があったように思います。多くの人にとって編図は読むものではあっても描くものではなかったといえるでしょう。

このようなプロとアマの関係は編物の歴史の中では比較的最近の出来事で、それ以前はデザインのプロなどは存在しませんでした。マスメディアの発達がそれを可能にしたのは、20世紀になってからでしょう。しかし今、インターネットは既存のマスメディアのあり方を揺るがす存在となってきています。新聞の運命でさえどうなるかわからないと言われる状況で、編物の世界がこのような変化と無関係でいられるはずはありません。情報の発信と受信の関係はこれまでとは違ったバランスになっていくでしょう。

とは言っても、人の感覚というのは簡単には変化できません。編物のデザインを発表するなどというのは、たとえアマチュアであったとしても、それ相応の技量を持っている人にしかできないと思う人もいるでしょう。私達は、そうではなく、マフラーを3本しか編んだことがない人でも、堂々と自分のデザインを発表できるし、そうするべきだとさえ思っています。ただのガーター編みのマフラー一本を編むときでも、一つの糸を選び、あるサイズの棒針を選び、幅と長さを考えければなりません。これらは立派な創造の世界なのです。

しかし、そんなものを発表しても誰も必要としていないのではないか?そう思うかもしれませんが、そうではありません。私達の編物入門だけで考えても、ただのワッチキャップやメリヤスのベレー帽が非常に人気があり、ベレー帽などはアメリカ人から特に頼まれて英文パターンを掲載したところ、その後もどんどんアクセスがあり、世界中の人が編んでいます。

まだ信じられないと思う人は、よく考えてみてください。何か編みたいものがあって、編物本をめくったとき、なかなか「これは!」と思うものに出会わなかった経験がないでしょうか。その際、「なんかどれも凝りすぎだなぁ。もっとシンプルなものでいいのに。」と思ったことはないでしょうか。実は、プロとアマ、供給者と需給者とを明確に線引きするためには、プロには供給者としてのアイデンティティを確保する必要性があり、なかなか当たり前の作品ばかりを作っていられないのです。

ごくありふれたデザインのものを「よければどうぞ」と発表できるのはアマチュアの特権であるといえるかもしれません。一つの作品としては平凡としか言えないようなものであったても、そのような作品が、何千何万とあり、しかも自分がそれを素材としてまた自由にアレンジして、新しいものを発表していけるとなれば、編物の楽しみは単に本を見てそのまま編んでいるときよりも何倍にも広がるのです。

私達はアマチュアが自由に、気楽に、デザイナーとしての誇りをもって自分の作品を発表できないのは、大きな損失だと考えています。漫画を考えてみてください。アマチュアでも読むだけではなく、一枚の似顔絵から、きちんとしたコマ割りをした作品まで、色々なレベルで漫画を描いています。それによって、楽しみの幅が広がり、またプロの底上げとなっているのです。アマチュアが描くことを止めたら漫画の楽しみは大きく損なわれてしまいます。カラオケを考えてみてください。発声法を基礎から勉強した声楽家しか歌えないとなれば、果たして世界のKaraoke に成りえたでしょうか。歌が上手い人も、下手な人も、あたかもスター歌手になった気分で気持ちよく歌う、これがカラオケの楽しみ方です。この祭りの喜びが世界に共鳴し、新しい文化を創出したのです。

自分がちょっと工夫して自慢のマフラーが出来たら、それを友達に自慢してもいいですが、もう一歩進んで、デザイナー気取りで、編図にして発表してみてはどうでしょう。下手だからと萎縮しないで堂々と皆の前で歌ってみるのと同じ気持ちで、自分の作品を別の人が編めるように、デザイナーとして公開するのです。実際にこれをやってみると、実に色々なことが見えてきて、編物のデザインに対する感性が急に深まることを実感するはずです。
仮にそれまでのように本の作品をそのまま編むとしても、すでにどこか違ったものが芽生えています。それは画家が先人の作品を模写するのと同じく、単なるコピー作成ではなく、作る立場に立って一つのデザインを追体験していく精神です。上手くても上手くなくても、一度自分の作品を発表してみること、これによって編物の楽しみは全く違ったものになるのです。

私達は、編図を手軽に描けること、これは編物デザインの発信と受信のバランスを変えるための重要なステップの一つだと考えています。

 


2006年3月18日(土曜日) 16:15
楽々編図化計画 その1
カテゴリー: - tata-tatao

今、編物Wikiで「文字編図」というのを提案しています。これは、普通の文字で編図と同じ情報を表現するという方法です。この方法は、文字が書ける環境であれば編図を表現できるので、メールでも、単純な文字しか認められていない掲示板でも、編図を伝達することができるので、有効な表現方法ではないかと思っています(等幅フォントという制約はありますが)。問題は、文字を編図に翻訳して読んだり、編図を文字に変換して書いたりする手間があるので、標準化されていないとこの変換の負担が大きくなり、普及しないだろうと言うことです。「文字編図」がどこまで市民権を得ることができるかは全くわかりません。

「文字編図」は一つの有力な案として、これとは別のアプローチも考えています。それは、編目記号フォントです。編目記号をフォント化し、そのフォントを使って編図を作れば、完全な編図を手軽に作ることが出来るわけです。しかも、情報量(サイズ)も「文字編図」と同様、非常に小さいものとできます。サーバの負担も大きくありません。このアプローチの難点は、フォント指定が効かない場所では解読が困難なテキストになってしまうこと、利用者のパソコンにあらかじめフォントをインストールしておかなければならないこと、など利用できる場所が限られてしまうことです。

htmlに関しては、ダウンロードフォントという機能があり、そのホームページを表示する際に必要なフォントがダウンロードされるために、パソコンにフォントをインストールしていなくても、フォントが有効になるという機能があり、これを使えばホームページ上で自由に編図を表現することが可能です。しかし、非常に残念なことに、この機能はインターネットエクスプローラでしか使えません。

ここから先は、インターネットエクスプローラでない方には非常に申し訳ないのですが、もし、ダウンロードフォントを使えばどのように編図を作れるかをテストしたいと思います。

kkkkkkkk
kostok
kkkkkkkk
pppppppp

いかがでしょう?・・・・・・ぴんとこない方もおられるかもしれませんが、実は上の編図は図形ではなく、次のような文字の組み合わせです。つまり、表目(k)は、kという文字、裏目(p)は、pという文字をそういう特別な形をしたフォントで表現しているのです。

フォントは文字の形ですから、文章の中に混ぜることが自然にできます。すでに上の行でその実例があるわけですが、編図の補足説明のなかで、「表目を5目編んでから、右上二目一度(s)してください。」などと、さらりと書けわけです。

また、サイズも自由に変更できます。今、あなたのパソコンにダウンロードされた編目記号フォントはスケーラブルフォントですから、滑らかに拡大・縮小ができます。つまり、自由な大きさの編図を書くことができるわけです。

編目kpsto
編目kpsto
編目kpsto
編目kpsto
編目kpsto

ワードやエクセルなどで編図をプリントアウトして配布する場合は、フォントは印字するマシンにのみインストールされていればいいので、編目記号フォントは重要な選択肢となるはずです。まだ、必要な編目記号すべてのフォント化は出来ていませんが、出来た段階で公開しますので、お楽しみにお待ちください。


2006年3月13日(月曜日) 19:51
編物Wiki「世界の編物」
カテゴリー: - tata-tatao

編物Wikiの企画として、「世界の編物」というのを考えてみました。

色々な国にお住まいの方が、その場所の編物事情を報告しあったら結構面白いのではないかという考えで企画しました。また、日本も広いので、色々な事情の違いがあるかもしれません。そういう発見があったら楽しいと思うので、近くのちょっと面白いお店や、編物事情などを簡単にでも書いてみてください。例えば、沖縄県の場合、編物シーズンは何月くらいから始まるのかとか、どこで毛糸を買っているかとか、逆に不自由していることとか、そんな情報共有ができたら楽しいと思いませんか?私達が今回書いた世界の編物の「日本」のところは、こんなソースです。

[[世界の編物]]

*日本

**国全体の概要

:年代: 広範囲ではあるが、年配層が多い。 :性別: 女性の趣味とみなされる。しかし、広瀬光治、嶋田俊之、橋本治など男性ニットデザイナーも大活躍。 :編み方:フランス式とアメリカ式では、7:3くらいでフランス式が多い。 :編み針: 竹製・プラスチック製が主流。輪針は金属製もあるが、棒針ではあまりない。 :編み糸: 冬は毛糸が中心。夏は、化繊糸・綿糸・麻糸なども使われる。 :ショップ: かつては商店街に一つはあった時期もあるが、今では少なくなり、専門店・通販ショップに移行してきている。 :作品: マフラー・手袋・セーターなど衣類が主流。かぎ針編みでは編ぐるみも人気がある。 :教育: 寒い地方では今でも義務教育に編物がある?(情報求む) :団体: 財団法人として日本編物文化協会・日本編物検定協会などがある。後者は編物検定試験を実施。 :出版: 日本ヴォーグ社・雄鶏社・ブティック社などが主な出版社。 :メーカー: 毛糸メーカーでは、ハマナカ・ダイヤ・カネボウ・スキー・パピー・野呂栄作ほか。手芸用品としてはクロバー社がある。 :機械編み: 手編み以上に衰退している。 :シーズン: 10月〜1月がオンシーズン。 :デザイナー: (日本を代表するニットデザイナーと思われる人をここに書く)

**地方別 :兵庫県: 神戸市内にユザワヤ三宮店・土井手芸店・ユニオン、があり、毛糸の入手においては恵まれている。 編物教室は神戸市内ではあまり見かけなくなった。ユザワヤで編んでいる人は全体的に高齢の方が多い。 ただし、クリスマス前に土井手芸店の地下に行くと、必死でマフラーを教えてもらっている若い女性が沢山いることもある。 出身ニットデザイナー 嶋田俊之。

結構Wikiの書き方って、簡単でしょ? * は大見出し、** は中見出し、: : ではさんで、説明用の文字、今回はこれだけしか使っていません。これで、ちゃんと「日本」というページになるのです。このソースをコピーしてちょっとアレンジして、[世界の編物/アメリカ] とか、[世界の編物/トルコ] とかの名前で書き込めば、すぐに「世界の編物」の一覧表の目次に現れてきます。 編物Wiki内はコピーも真似も自由ですから、どんどん人の書いたソースをコピーして真似してください。

編物の話も読んでるだけではなく、書いてみればきっともっと楽しいはず。自分が好きなニットデザイナーさんを:デザイナー:の後にでも書いてみたらどうですか?また、これでは不十分と感じるところがあれば遠慮なく書き足してみてください。気に入らないところは書き換えてもらって結構です。 :hammer:

それでは、皆さんのご参加をよろしくお願いします。あ、長文を書く場合は下書きをメモ帳とかでしておいてくださいね。直接書くと、タイムアウトでサーバに拒否されて、書いた内容がなくなってしまうことがあります。 :cry:


2006年3月10日(金曜日) 19:48
編物倶楽部を開設
カテゴリー: - tata-tatao

このサイトのオープンまで、5ヶ月もかかってしまいました・・・。 :cry: しかし、まだどうも安定していない感じもあるので、もしかしたらすぐにメンテナンスで停止したりしないといけないことになったりして・・・ :evil:

ここは、たた&たた夫の編物入門の別館、読者参加型サイトたた&たた夫の編物倶楽部です。とりあえず、サーバを集約するために、たたログはこちらに置いてますが、もし読者の投稿でここがいっぱいになるようでしたら、別の場所に引越しさせようと思っています。あまり投稿がないようでしたら、またプライベートサイトとして模様替えしたいと思っています。

編物倶楽部のメインは、編物Wiki です。このためだけに、読者参加型サイトを構築してみようと思い立ったと言ってもいいくらいです。Wikiをご存じない方は、何をどうしたらいいか分からないかもしれません。私たちも、完全に方向性を決めているわけではありませんが、いろいろと考えていることはあります。それについては、提案してみたいので、賛同される方がいらっしゃいましたら、どんどん参加ください。

編物Wikiの書き方についてのヘルプは、Wikiの中にもありますが、別途ヘルプを作ろうと思っています。

長いこと編物と直接関係のないサーバ構築ばかりしていて、拷問のようでした。とりあえずそれも一区切りがつき、これからコンテンツを書いていける環境ができたので、私達自身もとてもうれしいです。時間があれば、これからここで楽しんでいきたいと思っていますので、読者の皆さんも遊べそうと思う場所があれば、どんどん遊んでください。どうぞよろしくお願いします。 :lol:


2005年11月9日(水曜日) 20:00
スワッチ vs スウォッチ
カテゴリー: - xoopsadmin

私たちが編物ホームページを開いてから5年を越えたのですが、私たちがホームページのコンテンツを書いていたころは、特殊だったため悩んだことが、今では普通になっていることがあって驚くことが出てきました。「英文パターン」なども、私たちが pattern を勝手に訳した言葉ですが、そのころは、「英語で書いてある…」とか、「k とか pとかで説明している…」とか、はっきりした名前はありませんでした。

それよりもっと驚くのは「スワッチ」です。この言葉は私たちがノースリーブセーターの編み方で使うまで、手編みの世界ではあまり一般的ではなかったと思います。よく聞いたのが「ゲージを編む」という言葉ですが、編んだ物の寸法がゲージですから、ゲージそのものを編むことはできません。粗探しのように聞こえるかもしれませんが、私たちの手元にある日本ヴォーグ社の書籍の中を探しても「ゲージを編む」というような表現は一言半句も出てきません。出てくるのは、「ゲージをとる」という言葉だけです。

しかし、「ゲージをとるための試し編みをする」とかでは冗長となりますので、つい中抜きして「ゲージを編む」としてしまうのでしょう。しかし、こういう表現をしているうちに、どうも試し編みの編地そのものをゲージと呼ぶものと誤解する人が増えたのではないでしょうか。

ですから、「ゲージを編む」という間違った表現が減り、「スワッチ(swatch:生地見本の意)を編む」という表現に変わっていくことはいいと思うのですが、このカタカナ表現は散々迷った経緯があるだけに、複雑な気持ちになります。

swatch をどうカナ表記するかですが、時計の Swatchは、 スウォッチジャパンが正式社名です。 Swatch は、 S - watch でしょうから、watch はどうかといえば、セイコーはセイコーウオッチ株式会社が社名でした。ウォッチという表記も結構使われています。

では、ワッチは少数派かというと衣料関係では、ワッチキャップという定番商品があり、これをいまさらウォッチキャップと呼べば、頭に時計がついた帽子とおもわれるかもしれません(そんなことはないかなぁ)。このワッチキャプの元は、船員言葉のワッチ(見張り)から来たのだと思います。ワッチのときに被る帽子ということでしょう。

船員用語からの派生か、watch が時計でなく「注意深く見る」「監視する」という文脈で使われるときはウオッチではなく、ワッチが使われる事例が多いようです。なんと無線などを注意深く「聞く」場合にも「ワッチ」という言葉が使われています。ですから、日本では「ウオッチ=腕時計」「ワッチ=監視」というような使い分けがあるようです。もちろん「街角ウオッチ」などという表現もありますから、厳密なものではありません。さすがに腕時計をワッチとは言わないようですが。

私たちが「スワッチ」というカナ表記を選んだのは、私たちの知る範囲では、業界で生地見本を「スワッチ」と呼ぶのが一般的だったためですが、手編みの世界に業界用語を持ち込む必要があるわけでもなく、 swatchならやっぱり「スウォッチ」が普通ではないかと、悩んだ挙句に「スワッチ」と表記しました。

ちなみに、swatchの a の部分の発音記号は aですから、アメリカ発音ならはっきりしたア、イギリス発音ならオに近い発音です。

今日 googleで「スワッチ」を検索してみると、現時点で、トップこそ生地店のようですが、2番目が私たちのサイト、それ以降も編物関係らしき文章がずらずらと出てきています。どうも、インターネットで「スワッチ」を一番多用しているのは編物愛好者のようです。それとも最近の手編み愛好家は作品をそっちのけでスワッチばかり編んでいるのでしょうか?(笑)

生地関係ではまだまだ少数派ですが、生地見本を「ファブリック・スウォッチ」などと表記する店もでてきました。「ワッチ」が船員用語であるように、「スワッチ」がそのうち手編み愛好者の独特の表記法と呼ばれる日がこないだろうかと(それほど本気ではありませんが)気になったりします。あのとき、もし私たちが「スウォッチ」と表現していたらどうなっていたのでしょうか。やっぱり業界用語の「スワッチ」に収束していったのか、それとも「スウォッチ」も市民権を獲得したのか。「スウォッチ」ならまかりまちがっても編物サイトが検索の上位にくることなどありえなかっただろう… などと意味もなく思い返したりしています。

なぜ、今日こんなことを書いたかですが、現時点で、あまり vintage knit という表現 (1900年代の古い名作ニットという意味で)が日本の手編み界は流布していないからです。先日、私たちはちょっと迷って「ビンテージ」ではなく「ヴィンテージ」という表記を使いました。 これは watch=ワッチ よりはよほど一般的に使われていますので、さほど違和感はありませんでしたが、 vintage knit が日本ではヴィンテージ・ニットとなるか、はたまたビンテージ・ニットとなるか、それともバラバラか、または「熟成編物」とか翻訳されるか(まさかね〜)、先のことを考えてみても、こればかりは全く分かりませんね。

ゲーテとは、俺のことかとギョエテ言い − 詠み人知らず

ナイキが作る、自分デザインオリジナルシューズ。NIKEiD


2005年11月2日(水曜日) 14:43
ガーンジーの伝説[2]
カテゴリー: - xoopsadmin

夫婦のポートレート

昨日のガーンジーセーターの伝説は、長くなりすぎたのでいったん終わらせた。今日はその続きを書く。

ガーンジーセーターに意図的に間違いを入れたという伝説は、「海の男たちのセーター」 (とみたのりこ著 日本ヴォーグ社1989) にも次のように掲載されている。

パターンに特徴を持たせる以外にも、彼女達は誰にも明かさず、一目だけのまちがいを作ったという。どこに作ったかは彼女だけが知っている。それは、自らの手のとどかない危険な場所に最愛の人を送り出す女の、願かけにも似た行為だ。と同時に、彼の最後の装束になるかもしれない衣装を自らの手で作り上げる女の、悲しい、しかしきっばりとした決意のしるしであったのかもしれない。

「海の男たちのセーター」は、ガーンジーセーターの研究書として世界に誇れる素晴らしい本だ。特に著者自らが各地におもむき、直接関係者から取材しており、さまざまな資料がオールカラーで紹介されているのは、海外書籍まで含めてもまったく例をみない。

しかし、引用した文章は前半は伝聞、後半はとみたのりこ氏の推測であって、事実の取材ではない。とみた氏が取材した頃はすでにガーンジーセーターの伝統は死滅状態であり、博物館で目にかかるものでしかなかった。著者はやっと今も実際にガーンジーセーターを着ているフィッシャーマンに出会ったとき、喜びのあまり上着を脱がせているほどだ。

したがってこの伝説が本当かどうかを直接取材して確認することはできなったはずであり、だからこそ「…作ったという」と、間接的な表現に留めているのだろう。

しかし、この話は直接イギリスに取材しているもので、もっとも伝説の出所に近いもののように思える。ここからさまざまなバリエーションが広がっていったのではないだろうか。

この話には興味深いところが2点ある。一つは、「一目だけの間違い」で、もう一つは「彼女だけが知っている」という点だ。ここから、ガーンジーセーター伝説の真相を推理してみたい。

まず、「一目だけの間違い」という点だが、これは当然「その気になれば一目の間違いもなく編める」ということを前提にした話だ。しかしこれは可能だろうか。ガーンジーセーターは昔のニッターにとっても手間暇のかかる作品だ。それを、時には仕事の合間、また別の時には薄暗い闇の中で編んだ。ゆっくりと楽しみながら編んだわけではない。平均して2週間で一着を編み上げたというから、細切れの時間を使ったにしては驚異的な速度である。

過去のニッターの実力がいかにすごかったと言っても、万単位の数におよぶ編目のただの一目も間違えないということがありえるだろうか。彼女たちも人間、万に一つの過ちはあったと考えるのが自然だろう。

さて、模様編みセーターを間違えた経験のある人であれば、それがどのような意味を持つか、言われるまでもなく分かるだろう。たった一目であっても間違いはものすごく気になるのだ。その作品を見るたびにその部分に目が行く。それは10年経とうと、20年経とうと全く変わらない。セーターを見るたびに「あぁ、ここさえなければ」と思う。どれほど悔しいか、編物をしない人には想像もできないだろう。他の人には全く分からない些細な間違いであっても、自分だけはその傷が拡大鏡で広げたようにものすごく大きく感じるものだ。

私たちのように趣味で編んでいてもこうである。まして、ガーンジーの故郷であれば作品の意味は全く違うのだ。結婚が決まったカップルは、女性が男性にガーンジーを送る習慣があり、新郎はそのガーンジーセーターを結婚式で着る慣わしになっていたという。さらにそのガーンジーには「ブライダルシャツ」という特別な名前があったそうだ。

「ブライダルシャツ」ともなれば、一世一代の大仕事だろうが、そうでなくても夫の誇りと妻のプライドがかかった大変な作業である。そこに間違いをしてしまったと分かったときの衝撃と後悔は想像するに余りあるではないか。おそらくこれは誰にも打ち明けられなかったかもしれない。これこそが、「彼女だけが知っている」という伝説の2点目に繋がるのではないだろうか。

もちろん、そのような間違いは濃紺のガーンジーでは簡単に見つかるものではなかっただろう。しかし、もしも夫が自分のガーンジーの間違いに気付いたとしよう。妻はどう言うだろう。笑って、「間違っちゃったのよぉ〜。ゴメンネ〜。」と言うだろうか?いや、おそらく言えなかったのではないだろうか。しかし、間違いを認めないとすれば、どうなるか。必然的に、それは故意に編んだとしか言いようがないではないか。例えばこういったかもしれない。そしてこのような言葉が、男をして今日まで伝わる伝説を残さしめたのではないかと思うのだ。

「女はね。夫の安全を願ってわざと間違いを入れているの。」

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